【村上輝康のひとこと】
2022年4月5日 サービソロジー・ネイティブの誕生
3月7日から9日まで、東京大学において第10回のサービス学会国内大会が開催された。今回の国内大会は、設立10周年記念の開催で感慨深い大会だったが、とりわけ感激したのは、大会の質疑応答の中である若い研究者が何気なくつぶやいた「私のようなサービソロジー・ネイティブにとっては、、、、、」という言葉である。サービソロジー・ネイティブ! サービス学会の創設に参加し、その活動に積極的に参画してきて10年、自分自身はどちらかといえば学術界からみれば、サービソロジー・イミグラントなのであるが、この言葉を聞いて、これまでここでやってきて本当に良かったと心から思った。
そのつもりで見まわしてみると、サービス学会のWebマガジン「サービソロジー」の「サービス学と実践」コラムのムラカミロジーというシリーズの第5回で取り上げた、東大の原辰徳さん、東工大のホーバックさんをはじめとして、サービス学会の誕生とともにサービス学の分野で研究者としての活動をはじめ、サービス学会の成長とともに研究者として成長してきた研究者が、数多く育ってきているのである。当初は、私のようにサービソロジー・イミグラントとしてこの分野に入ってきたが、研究を続けているうちに、もうかぎりなくサービソロジー・ネイティブと言えるほどこの分野での業績を蓄積する研究者も出てきている。私のようなサービソロジー研究の成果の、どちらかといえば利用者にあたる者にとっては、これほどうれしいことはない。
私が今回のサービス学会の初日に発表した「価値共創のサービスモデルによる利用価値共創の仕組みの創り込みの事例分析」論文では、優れたサービスイノベーションには、革新的で優れた価値提案が不可欠であるが、それをサービスイノベーションとして実現させるためには、それを顧客に受け入れてもらうための優れた価値共創の仕組みの創り込みが必ず無ければならない、ということを、コマツのスマートコンストラクションや森ビル/チームラボのデジタルアート・ミュージアムの事例を用いて解題した。
このコラムを書きながら気づいたのは、それが最も必要なのは、実はサービソロジーの研究コミュニティだったのではないかということである。10年前、この研究コミュニティは、確かに「サービソロジー」という革新的で優れた価値提案を世の中に対して行った。しかし、その革新的で優れた価値提案を、サービス学の標的顧客である幅広い関連分野の研究者や、企業のサービスイノベーション立ち上げの担当者、彼らを牽引すべき経営者が、喜んで受け入れられるような価値共創の仕組みの創り込みの努力を十分やれてきたかというと、内心忸怩たるものがある。
サービソロジー・ネイティブが、次の10年に、サービソロジー・レガシーになるように、やるべきことは多い。